前回、COCK ROACHの名前を出しましたので、ここで一枚ご紹介します。
本作は3枚目にして最後のアルバム。前作までとの大きな違いは、「哀」を感じさせる音や構成が目立つ点でしょうか。彼らの作品に共通する重要なテーマとして「生」と「死」があるのですが、本作は、哀でありながらも「生」をより強く感じさせるアルバムになっていることで、結果的に比較的聴きやすく仕上がっています。彼らの場合、音楽そのものが、心をハッピーにするために聴くブルースやポップス、歌謡曲的な質のものではなく、芸術作品として意識的に聴く類いの音楽なので、あくまで「比較的に」です。聴きやすくなってはいるのは結果であって、歌詞の強さ、楽曲の強さが損なわれているわけではなく、あくまで前作の思想的な展開として到達した音なのでしょう。
楽曲は本作もやはり唯一無二のものとなっています。物語のような構成、ロックをベースとしたオリエンタルな音の使い方、不安にさせる変拍子に織り交ぜるキャッチーなリフやメロディー、念仏のような詩、唄。COCK ROACHというバンドの素晴らしいところは、売れる売れないは二の次で、音楽というものを純粋な己の表現手段とする立場をとっていることにあります。その音楽性は一聴すれば瞭然。そしてもう生で見ることは叶わないのですが、ライブがものすごい。そのステージでの圧倒的な表現力と放出されるエネルギーは、その場にいる者の身体を震わせます。
音楽の最高の形がライブにあることは、おそらく間違いないでしょう。そして、そのようなライブができるミュージシャンは、本当のアーティストなんだと思うのです。実は、個人的にCOCK ROACHの音楽が特別好きなわけではありません。ただ、彼らはそんな本物のアーティストの一つであったと確信しています。
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