いしいしんじ最新作。文藝春秋に掲載された作品を集めて書籍化したもの。本作は四国を舞台とする、五つの物語で構成されている。それぞれのエピソード全く違えど、この五話は螺旋状に、付かず離れず絡み合っているような感覚を覚える内容になっている。それはたぶん、「いしいしんじ」というライターの存在を強く感じさせる文体表現であるからということだけでなし、生や死を通した人生という、永遠に螺旋状に続くようなテーマが、全エピソードに暗喩されているからではあるまいか。
文体はいづれも不可思議な表現である。現実と非現実との狭間がわからなくなってしまうような不思議な文体に、あられのように降りつける文字化された断片的なイメージによって、読むさなかで居場所を見失いそうにさえなる。文章としてははっきり言って読みにくい。だから頭で読むというよりかは感覚的にざっくりと読む、という読み方がふさわしく、実際そのようにして読むと、文字化された世界が頭に広がった。
「四」とは「四」であると同時に「死」であるのかもしれない。そう捉えると、表題の「それ以上の国」という言葉に深みが出てくる。五部構成という形式も、カバーの「四」というフォントが五角形なのも、何か意味があるように思える。ちなみにカバーデザインが秀逸である。少し凹凸のある紙に絵画のような不思議な色彩の抽象的な絵が描かれ、そこにオリジナルフォントの表題が黒抜きで焼印のように入っている。調べてみると池田進吾というデザイナーの仕事のようで、広告出身ということもあってか、自然でありながらもキャッチーなつくりとなっている。この著者のカバーデザインは非常に難しいだろうと思う。
ポップ3割、ダーク7割なので、おすすめはしない。しかし、哲学的な要素を含むヒューマンファンタジーであり、著者にとっても、今後の代表作になるのは間違いないような大作だとは思う。
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